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地震学者の警告無視して原発再稼動 (Ⅰ)

  MAG2NEWS  2016.07.29

原子力ムラ」に完全支配された原子力安全・保安院をつぶし新たに誕生した原子力規制委員会ですが、体質は旧態依然のようです。関西電力が算定した大飯原発の「地震動」の評価について、「低く見積もり過ぎ」とした地震学の権威の新知見を「結論ありき」の理屈で全否定。これについてメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんは、「原子力規制委員会は安倍政権と電事連の虜」だと厳しく批判しています。

原子力ムラ」に完全支配された原子力安全・保安院をつぶし新たに誕生した原子力規制委員会ですが、体質は旧態依然のようです。関西電力が算定した大飯原発の「地震動」の評価について、「低く見積もり過ぎ」とした地震学の権威の新知見を「結論ありき」の理屈で全否定。これについてメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんは、「原子力規制委員会は安倍政権と電事連の虜」だと厳しく批判しています。

★島崎元委員の新知見を拒否する原子力規制委の旧体質

原子力規制委員会は、やはり看板を付け替えただけで、中身は旧組織の体質をそのまま引き継いでいるようである。

かつて、福島第一原発の国会事故調査委員会は調査報告書で、こう指摘した。

規制する側の原子力安全委員会原子力安全・保安院が、規制される側の電力会社の「虜」となっていた。すなわち、電力会社と、業界団体である電事連に都合のいいように使われていたために、安全対策がおろそかになっていたのである。その教訓から誕生したのが、原子力規制委員会と、事務局の原子力規制庁だったはずだ。「虜」の立場から脱することが使命だった。

ところが、実務にあたる規制庁の官僚は、多くが原子力安全・保安院からの移行組であり、当初から意識改革が可能なのか疑問の声が上がっていた。とくに、安倍政権が復活し、原発再稼働方針を打ち出してからは、原子力規制委員会の姿勢も当初より緩み、再び、愚かしい道をたどりつつあるように感じる。

ある「事件」が起きた。7月19日、東京都港区の原子力規制委員会会議室での出来事だ。

田中俊一委員長、石渡明委員のほか、規制庁の櫻田道夫規制部長ら数人が待ち受けるなか、白髪の紳士が一人で入室し、着席した。前原子力規制委員会委員長代理、東大名誉教授、島崎邦彦。かつて東京大学地震研究所教授、日本地震学会会長をつとめた。まさにその分野の権威だ。付け加えるなら、規制委員会のなかで、ただ一人の地震学専門家でもあった。

民主党政権時代の2012年9月に委員会が発足したさい、細野豪志原発担当相はこう強調した。

原子力ムラから規制委に地震学者を入れるなと圧力を受けたが、3・11の教訓を生かすために地震学の第一人者である島崎先生に無理なお願いをした」

国民の立場から見ると、地震の専門家が入らないで、どうやって地震津波に対する原発の安全性を確保するのかと思う。ところが、電力会社は違うようだ。地震対策は完璧にやろうと思えばきりがなく、カネがかかってしようがない。だから、地震学者はいわば「天敵」に見えるのだろう。

果たせるかな、島崎は委員会の中で、唯一といっていいほど厳しい審査をして、原子力ムラやその御用メディアの批判を浴びた。そのためか、島崎は2014年9月の任期満了で再任されず、結果として、規制委員会に誰一人として地震専門家はいなくなってしまったのである。この人事の背後に、原発再稼働をめざす電力業界の激しい巻き返しと、安倍官邸の意向があったのは言うまでもない。

退任から2年近くが過ぎ、島崎がなぜ、規制委員会にやってきたのか。会場は最初から重苦しい空気につつまれていた。田中委員長が一通りのあいさつをしたあと、いつものようにボソボソと話しはじめた。

「先日この場で島崎先生からいろいろ御懸念の点をお聞きし、通常はこういう対応はしないが、島崎先生はここで自ら大飯原発の審査をされていたので、誠意をもって…」

これが、そのあとに繰り広げられた慇懃ながら憎悪むき出しの規制委、規制庁側と、物静かに対抗する島崎元委員との壮絶なバトルの幕開けだった。

このシーンに至る経過を説明しておこう。

島崎名誉教授は2015年5月から2016年5月にかけて開かれた日本地球惑星科学連合大会、日本地震学会秋季大会など4回にわたる学会で、ほぼ同じ内容の発表をおこなった。そのポイントは、関西電力大飯原発で想定する最大級の地震の揺れが小さく見積もられ過ぎているという指摘だ。関電による地震モーメント(地震の強さ)の算定法の妥当性を否定したのだ。

委員会退職後の研究や熊本地震の観測データなどから、関電が用いた「入倉・三宅式」という計算方式によって得られる地震動の推定値では、大飯原発付近の断層の場合、過小評価になってしまうということが島崎の研究で判明した。

新規制基準に基づく大飯原発3、4号機の審査のまとめ役だった島崎は、両機の再稼働決定に責任を負わねばならない立場であるのは確かだ。退職後の研究で、関電の算定法に大きな疑念を抱いた以上、科学者として何らかのアクションを取らねばならないと考えた。それは学者の良識といえる。しかし、島崎とともに審査にたずさわった田中委員長ら、現在の規制委員会メンバーにすれば、出過ぎたことと見えるかもしれない。

島崎は今年6月、大飯原発3、4号機運転差し止め訴訟の控訴審にからみ、原告側弁護団の依頼で以下のような陳述書を名古屋高裁金沢支部に提出した。

関西電力は、私が行った日本地球惑星科学連合大会2015年大会における発表内容につき、同社の断層モデルを用いた手法による地震動の評価とは無関係だという主張しているようですが、その主張には理由がありません…。

関電と真っ向から対立する姿勢を示したのである。

大飯原発の数キロ以内には長さ60キロを超える断層(FO-A~FO-B~熊川断層)が存在する。これは西日本に多いタイプの活断層、すなわち断層傾斜角が垂直の横ずれ断層である。

関電は「入倉・三宅式」の計算によって、基準地震動を最大856ガル(ガルは加速度の単位)と想定している。規制委は、この地震動を前提に大飯3、4号機の地震津波対策が十分かどうかの審査をしたのだが、それが誤りだったことに島崎は気づいた。

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