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続き、、、地震学者の警告無視して原発再稼動 (Ⅱ)

島崎は断層傾斜角が垂直、あるいはそれに近い横ずれ断層の場合、「入倉・三宅式」では、他の計算式(武村式など)の4分の1ていどの数字しか出ず、過小評価になってしまうと主張する。大飯と同じような垂直の横ずれ断層で起きた熊本地震は、震源付近で1,000ガルをこえる強さであった可能性が高い。島崎はその事実に衝撃を受けるとともに、「入倉・三宅式」の計算による地震動想定では低くなりすぎると確信したのだ。大飯原発差し止め訴訟にかかわる6月の陳述書提出に応じたのは、委員会を退いたとはいえ、かつて審査を担っていた身として、科学的な新知見を提示する必要を感じたからだ。

これに対して、原子力規制委員会は6月16日、島崎を招き、説明を聞いた。そのさい島崎は「入倉・三宅式」以外の方式で再計算をするよう要望した。問題はその後である。島崎の要望を受けて規制庁が別方式(武村式)で試算したのはいいのだが、その結果は「見直しの必要なし」というものだった。

出てきた数字は最大644ガルで、関電が想定する856ガルを下回っていると規制庁の担当者は島崎に説明した。島崎は7月15日に記者会見を開いて「納得できない」と表明した。関電計算と同じ条件でパラメーター(数値)を入力すれば、理論上、武村式なら大きな数字が出るはずなのである。

関電の出した最大856ガルは、「入倉・三宅式」で算出した数字に不確定要素を加える目的で1.5倍した数字だが、規制庁の示した644ガルは1.5倍したものではない。同じ条件で比べるなら644ガルではなく、その1.5倍の966ガルとすべきであろう。
少なくとも規制庁は計算のやり方を、関西電力と比較できる形にはしていなかったのである。

島崎は原子力規制委の田中委員長に納得できない旨の手紙を送付したが、規制委は7月13日の会議で、「基準地震動の見直しを(関電に)求める必要はない」との結論を出し、7月19日、緊迫したなか、島崎と話し合いをおこなったのである。規制委員会の目的は、島崎を説き伏せるせることだ。だから、田中委員長は「通常はこういう対応はしないが…」と恩着せがましい言い方をし、最初から威圧的だった。

規制庁の櫻田規制部長らは、どのような試算をしたかを島崎に説明した。

「計算は武村式を使ったが、無理を重ねた計算になった。大きめの値が出るように武村式の計算をしたつもりだ」

島崎が反論すると、規制庁の事務方は「失礼ながら島崎先生は理解されていない」などと、強い口調で批判した。島崎は「口はばったいが、入倉・三宅式を不使用とするよう提案したい」と述べたが、田中委員長は次のように、その場を締めくくった。

「いろいろな式をやってみることは大切だが、それをこちらに求められても困る。やっちゃいけない計算を今回無理にやったと正直思っている。新しい知見を採り入れるには難しい面があるので、まずそちらの専門の分野でしっかり固めてほしい。今の私たちのやり方がだめだという判断はできない」

規制委員会側が、結論ありきの理屈を押しつける形で協議は終わった。「双方の理解の違いがよく分かったが、了承したということではない」と島崎はうなだれた。原子力規制委員会の厚い壁は、元委員でも突き破れなかった。

島崎は「あくまで大飯原発について申し上げている」というが、垂直の横ずれ断層が近くを走る原発はほかにもあるのだ。

★島崎氏が去った規制委員会に加入した人物の素性

原子力発電所の再稼働審査にあたり、従来の地震動の想定方法に疑問が出てきたのなら、規制委員会はそこでしばし立ち止まり、徹底的に、本来の在り方を追求しなければならない。そうでなければ、再び「想定外」の大惨事を繰り返す恐れがある。にもかかわらず、再稼働を急ぐ電力会社と安倍政権に気を遣い、かつて委員長代理をつとめた地震学の権威が提起する安全への重大な疑義を
もみ消そうとしている。

これでは、国として福島第一原発事故への真摯な反省もうかがえない。規制庁という新組織にほとんどそっくり移行した旧原子力安全・保安院の体質がそのまま残っていると言われても仕方がないだろう。島崎らが去ったあとの規制委員会には、その原子力ムラの理論的支柱、田中知東大教授(原子力工学)が新委員として加入している。

設立当初の理念はどこかへ吹っ飛び、いつのまにか安倍政権と電事連の「虜」に再び変貌したように見える原子力規制委員会は、もはや再稼働審査というアリバイ作りの場でしかなくなったのだろうか。

<<参考>>

断層の長さ(L)から地震モーメント(Mo)を求める関係式の比較をわかりやすく表現した島崎の学会発表資料から、「入倉・三宅式」と「武村式」を例示しておこう。

入倉・三宅式:Mo=1.09×「10の10乗」×「Lの2乗」

武村式:Mo=4.37×「10の10乗」×「Lの2乗」