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食べこぼし、むせる、、、は老化のサイン

日新聞 2015年10月08日 東京朝刊

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 ちょっとした滑舌の悪さや食べこぼし、飲み物にむせるといった口まわりのトラブルは、高齢者の体が弱っていく最も早いサインだ。日本歯科医師会は「オーラル(口)・フレイル(高齢者の虚弱状態)」と呼んで、早い段階での対処を呼びかけている。

 ●虚弱の“上流”に

 口まわりの健康と全身の状態との関係には科学的な裏付けがある。東京大高齢社会総合研究機構の飯島勝矢准教授(老年医学)らのグループは千葉県柏市の協力を得て、市内の65歳以上の高齢者1900人あまりで口腔(こうくう)や全身の健康状態、食生活、生活の質など224項目を3年にわたって調査した。

 すると「歯の本数」や「食べこぼし、むせ」「かむ力」「食事の量」など多くの項目が、全身の筋肉量や筋力の低下、運動機能の低下などと強く関連していた。飯島さんらは項目ごとの関係を解析し、想定される虚弱の進み方を4段階の流れ図で表現。そのうち、筋力や運動機能の低下の前段階に当たる口まわりの不調を、新しい概念として「オーラル・フレイル」と位置付けた。

 「軽微な口の弱りは、全身の虚弱の“上流”に当たる。この段階で対策を講じれば『ささいなトラブル』だからこそ元に戻したり、機能を維持したりできるはずだ」と強調する。

 飯島さんはさらに、高齢者の社会的な活動性に着目する。家族や知人と食卓を囲む人は、1人で食べる人に比べて不調も少ないという。「皆と一緒なら多様な食品を食べるし、会話も弾み、唾液も出る」からだ。
また、自分の健康への興味、関心も大事。
口の状態を気にする人は歯科医にかかる機会も多く、機能がより長く維持できる。

 ●衰えが衰えを呼ぶ

 では、どうやって不調に気付き、対応をしたらいいのか。東京都健康長寿医療センター専門副部長で歯科医の平野浩彦さんは兆候として「硬い物が食べにくい」「液体でむせる」「口が渇く」の三つを挙げ、「体の筋肉と同じ。食べる力も意識して使わないと衰える」と自助努力の必要性を指摘する。「かめない」「軟らかい食べ物を選ぶ」「さらに衰え、いっそうかめない」などという悪循環が典型的な始まり。食欲の低下を経て、栄養状態の悪化を生む。

 自分がしっかり食べ物をかめているのか、簡単に分かる方法がある。奥歯でしっかりかむとあごも大きく動き、頬に手を当てると大きな筋肉の動きが伝わってくるはずだ。前歯だけをかみ合わせても筋肉はあまり動かない。平野さんによると、軟らかい物を食べる際は主に前歯しか使わず、このかみしめるための大きな筋肉が衰えてしまう。いつの間にか、好き嫌いより食べやすさで食べ物を選ぶようになることも、かむ力の衰えを示す要注意のサインだ。

 ●「パ、タ、カ」テスト

 口の動きを測る簡単なテストもある。「パパパパ……」「タタタタ……」「カカカカ……」。パ、タ、カの3音を短時間でどれだけ細かく発音できるか。医学的にも確立した試験で、唇や舌の機能を示す。特に「カ」は舌の根元を使うため、のみ込む力と密接な関係があるという。

 口まわりのちょっとしたトラブルへの対策は、まずはかかりつけの歯科で相談して指導を受けるのが一番だ。各地の歯科医師会が高齢者向けのセミナーや相談会を催したり、自治体が筋力強化や栄養指導と併せて教室を開いたりしており、日本歯科医師会は虚弱を予防するための国民運動につなげようと取り組んでいる